不明な点があれば、井原までどうぞ。E-mail(ihara-t/aist.go.jp)でも、また、直接来ていただいても(工学部4号館228研究室)構いません。
質問は、[Q1]〜[Q18]の計18問でした。
塗料によって外気・室内間の伝熱はどのように変化するのか?
高反射高放射塗料を建築外表面に塗装すると日射反射率が上昇し(0.91程度)、通常外表面(日射反射率0.2程度)に比べて、日射が入りにくくなります。一方、高反射高放射塗料は日射反射率が高いにもかかわらず、長波放射率は0.9程度と通常外表面とほぼ同じ値を示すので、壁面からの赤外放射の量は変化しません。そのため、建築物内部の温度は低く保たれます。
建築伝熱的に考えると、高反射高放射塗料の導入によって相当外気温度が低下するため、貫流熱負荷が小さくなります。塗料の導入によって壁体の熱伝導率や熱容量は変化することはありません。
アルベドとは何か?
アルベド(albedo)とは、地表面において日射がどれだけ反射するかという値です。物質表面における短波反射率に相当します。全反射する場合が1、全く反射しない場合が0です。今回のシミュレーション計算のうち、「高アルベド化」ケースに関しては、高反射高放射塗料の短波反射率を、そのままヒートアイランドシミュレーションモデルにおけるアルベド値としています。
射出率(黒体度)とは、地表面がどれだけ熱を射出するかという値です。物質表面における長波放射率に相当します。黒体放射の場合(完全黒体)が1、全く放射しない場合が0です。今回のシミュレーション計算のうち、「高アルベド化」ケースに関しては、高反射高放射塗料の長波放射率を、そのままヒートアイランドシミュレーションモデルにおける射出率値としています。
粗度長とは、地表面の粗度を表す値で、接地層の風速に影響します。単位は[m]です。接地層において、地表面に近づくほど空気抵抗が働くため風速Uは小さくなり、地表面そのものz = 0ではU = 0となります。しかし、地表面にビルが林立していたりあるいは果樹園があったりして、地表面の凹凸が大きいと、それだけ空気抵抗が働きやすくなり、z = 0ではなく、z = z0(z0 > 0)で、U = 0となってしまいます。そのときのz0を粗度長と定義します。
都市キャニオンとはどこを指すのか?
東京のようなビルが密集した都市街区のことを「都市キャニオン空間」(キャニオン(canyon)とは渓谷の意味)や「都市キャノピー空間」(キャノピー(canopy)とは天蓋の意味)と呼びます。
都市キャニオン空間は、メソスケールレベルとはまた別のメカニズムで気温や風などが定まっているため、建築物への都市気温の影響を正しく評価するには、そのようなモデルが必要であると考えられるようになってきています。
メソスケールモデルの問題点の改善とは、何をおこなうのか?
研究室に存在する現行のモデルは、静力学平衡の仮定を置いていないという特色があるのですが、そのために計算時間が遅くなってしまっています(SIMPLE法を用いても)。そして、何よりも問題であるのは、境界条件を正しく設定できるようになっていないため、現実の都市環境を反映していないのでは?、という点です。
これらに関しては、現行モデルを改良することで改善可能であり、昨年末よりモデルの改良を検討してきましたが、研究時間の兼ね合い上、現在は、独力でのモデル開発を諦め、外部から数値モデルを借りて計算をおこなうことを検討しています。
東京近郊(60[km]x80[km])における格子の切り方(スライド20)について。
都市部はヒートアイランド現象が顕著なために、格子間隔を小さく設定しているが、その際の格子間隔はどのようにして決定したのか?
始めに、都市部において格子間隔を小さく設定しているのは、都市部を評価対象としているためであって、ヒートアイランド現象が顕著なためではありません。
なお、格子間隔ですが、もちろん細かければ細かいほど現実をよくシミュレーションできると考えられますが、一方で計算時間もかかるようになってしまいます。そのため、計算時間の兼ね合いで格子間隔を決定しているのが現状です。今回の計算においては、大体実時間2日ほどで計算をおこないたかったので、このような格子間隔としています。
格子間隔の大小により現実との乖離がどれくらい起こってくるのかは、まだよく分かっていません。メソスケールモデルについては、今後、外部のモデルの利用を考えており、その際に、格子間隔の大小による計算値の変化を調べる予定です。
日照率とは何か?
日照率とは、快晴時における理論日射量を1としたとき、対象時刻の日射量を理論日射量で割った値で、本研究独自の用語です。
快晴時における理論日射量は、暦より計算される大気圏外日射量に快晴時の大気透過率を考慮することで算出しています。なお、今回の発表では、快晴時の大気透過率は夏期に合わせて0.7としましたが、実際には冬期の方が大気透過率が高いので補正する必要があります。大気透過率の値については今後変更する予定です。
本研究では、以上より算出される日照率を用いることによって、快晴時以外の熱環境シミュレーションをおこないました。
通年での晴れ・曇り・雨の日の割合はそれぞれどれくらいか? また、一概に曇りの日といっても、日射の強さなどにどの程度のばらつきがあるのだろうか。ばらつきを考慮することにより、雨の日の表現は難しいとしても、晴れの日・曇りの日に関してはより正確に年間評価がおこなえると思う。
通年での日平均日照率の頻度(度数)を図A.1に示します。
図A.1 日平均日照率の頻度(練馬・1995年)
本研究では、快晴時・平均日照率時・日照率0時の3点について気温低下幅を算出するだけではなく、その3点から2次曲線を用いて回帰する(スライド35)ことによって、いかなる日照率においても気温低下幅が算出できるようにしてあるので、日ごとの日照のばらつきを考慮できていると考えています。
塗料Aの物性値をそのまま地表面物性値としている(スライド6)が、これは、塗料を地表面に塗装しているのか?
高反射塗料導入による気温変化とは、どのように起こるのか?
高反射高放射塗料と都市気温の変化の相互作用については、どのように計算しているのか? 塗料の効果がその瞬間に都市の温度にフィードバックされるのか?
高反射高放射塗料を導入すると、都市環境では、アルベドが上昇するため、気温が低下します。これが塗料導入による都市環境への直接的な影響であり、即時の現象です。
一方、建築物では、建築外表面の日射反射率が低下することにより、日射由来の貫流熱が減少し、冷房需要および冷房需要由来のCO2排出量が減少します。これが塗料導入による建築物への直接的な影響です。
しかし、都市熱環境と建築熱負荷は相互に関連しています。
すなわち、建築物の冷房需要が減少すると、建築外に排出する空調排熱が減少し、気温が低下します。これは塗料導入による都市環境への間接的な影響です。空調排熱の量は貫流熱以外の熱負荷要素にも影響されるので、即時の現象ともそうでないともいえます。
一方、都市の気温が低下すると、外気温度由来の貫流熱が減少し、冷房需要および冷房需要由来のCO2排出量が減少します。これは塗料導入による建築物への間接的な影響といえます。
今回の発表では、都市気温が低下したことによる建築物への影響を評価しましたが、空調排熱の減少による都市環境への影響は評価していません。
都市環境を考慮した低反射低放射外表面の導入効果は、高反射高放射塗料に関する計算結果からある程度計算できるのか?
都市環境を考慮せずに、建築物のみを対象に低反射低放射性外表面を導入した場合の計算結果に関しては、昨年6月の打ち合わせ資料を参照して下さい。
都市環境を考慮した場合の評価に関しては、近似的には計算可能かもしれませんし、方向性は分かるものの、上記のように、日射反射率・アルベドとCO2排出量とは1次の関係にないので、別途シミュレーションをおこなう方が望ましいと考えています。
今後の課題で最も重要な事項は、冬の対策ではないだろうか? やはり工学的見地(役に立つということ)に立ち、何か対策について述べるべきではないかと思う。
夏のみ塗料というのは、現実的かどうか。
塗料導入によって通期ではCO2が増加してしまうとのことだが、それでは導入するメリットが弱いのではないだろうか?
塗料を導入した場合の冬期の暖房需要増大に関してですが、OA化の進展に伴い、最近のオフィスビルは通年冷房が増えてきている[A]とのことなので、それを前提にしたシミュレーションを現在考えているところです。その場合、通年でもCO2排出量は減少する見込みです。
ただし、暖房需要が多い建築物の導入に関しては、発表の際、話したように、切り替え機構が必要となってきます。切り替え機構に関しては実際に試験モデルを用意するのが難しいため、現実に存在する似た機構のもの(サイディング工法など)を示すにとどめようと考えています。
外表面の切り替えに関しては、塗料の塗り直しにせよ、切り替え機構にせよ、コストの問題で現在は導入が難しいかもしれません。そのため、結論をまとめる際には、通期で導入可能な場合と切り替え機構を導入する場合の2通りを評価してみようと考えています。
シミュレーションによる都市の気温の低下が非常に大きくて驚いたが、現在、塗料の導入というのは、どの程度進んでいるのか?
高反射高放射塗料は新しい技術であり、また冬期の問題もあるため、シミュレーションに示したような大規模な導入は全くおこなわれておらず、現在、郊外の工場や倉庫など非居住型建築物の一部に導入されるにとどまっています。
塗料のコストや塗料製造時のCO2排出は考慮するのか?
LCCO2に関しては、現在はまだ計算しておらず、また他の研究者も考慮している事例はありません。今後計算していきたいと考えています。
コストに関しては、昨年計算をおこない、研究室でも昨年4月11日におこなった打ち合わせで発表しています。詳細な値に関しては打ち合わせ資料を参照して下さい。現状では、単に1建築物のCO2排出削減単価という指標で見ると、太陽電池より高い値となっています。都市環境の変化なども考慮すると有利になると考えていますが、これらの総合的な評価をどのような指標を用いて計算をおこなえばよいかは、今後、考えていく予定です。
今後の課題をいろいろと列挙しているが、どの項目について作業をおこない、最後にまとめていくのか?
今後の課題で挙げたように、メソスケールモデルに関しては、問題点が多く、新しい数値モデルを開発すると時間がかかってしまうので、外部のモデルの利用を考えています。
今後の大きな作業は、
の2つにとどめ、なるべく早く今までの作業をまとめていく予定です。
今日のスライドをプリントアウトして欲しい。
時間の都合で、今回は、スライドを印刷しませんでした。ウェブにアップロードしたので、そちらを参照して下さい。ウェブとは別個に紙の形で配付資料が欲しい人は、連絡してくれれば印刷します。